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ガロンボトルビジネス最前線 【その6】
2008年 日本に適したもの #1  /前編(1月〜7月)

2007年11月から、地産地消への脱皮を図る営業を始めました。私自身しばらく営業から遠ざかっていましたが、状況は刻々と変化するものです。自分で動いてみると、実に多くのことに気づかされることになりました。そして、それがガロンボトルビジネスにおいて、日本に適したものとは何か?を定かにするきっかけになりました。
そこで、その経緯を順を追って記してみることにします。

群馬は水処で、温泉や美味しい天然水の宝庫です。そこにアクアクララ・岩谷産業・クリスタルクララ・ハワイウォーター・ミツウロコ等が進出して来たことが、「時節到来」を囁きかけました。しかし、動いてみると、実情は自分たちが考えていたものとはまったく違ったものでした。他の業者の群馬進出は、勝算があってのことではなかったのです。内情は、各業者の本部が全国展開を目指す過程で、埼玉県の次という位置関係にある群馬県に進出してきただけのことだったのです。
例えば、A社は埼玉に工場を構えていますが、群馬に工場を建設するのは時期尚早と考えています。埼玉工場は群馬や栃木の売上を計算に入れられるのですが、群馬に工場を建ててもそれ以遠の需要が見込めません。とすると、市場を群馬だけに限っての工場では、採算が合わないということが明白となります。それだけ小さな市場にも関わらず、上記の業者がこぞって進出してきています。おおよその業者がLPガスを本業とする会社であることは既に述べましたが、その系列で親会社と太いパイプを持つ地元企業が代理店を任されています。恐らく、各代理店共、親会社の要請を断れない事情があり、引き受けざるを得なかったのでしょう?

「地元群馬の名水ですし、価格も安いので是非お試し下さい」という弊社の営業に、「知り合いから頼まれて置いているので、断るわけには行かないんだよね。田舎は、そういう関係で動いているから」という言葉が返ってきました。親会社の要請を断り切れなかった代理店と同じように、その代理店のお願いを断り切れない企業や個人が居て、その輪の内側で営業が行われていました。サーバーをレンタルし、高いボトル入りの水を買う動機は、唯一その「関係」にあったというわけです。各社共に、顧客獲得が一定数にとどまってしまっているのは、強くお願いのできる「関係」の範囲は、誰にとってもほぼ同じということなのでしょう。詰まるところ、フランチャイズの代理店は、一般顧客を念頭に置いた営業ができていません。そして、その一般顧客と面と向かうことがない営業が、お客様の声を反映させられない仕組みにつながっています。そのため、この業界は、目に見える点での改善も進歩もないまま、今日を迎えてしまっているのです。水の良い地域で、知識も持たずに「おいしくない水」の営業を繰り返している姿は、この業界全体の縮図と言えます。しかし、「人の振り見て、我が振り直す」の言葉通り、その縮図は、自分たちの無策をもあぶり出すこととなりました。

お客様の声の代表格は「この水を飲むためには、このサーバーが必要なのか?」というものです。「はい。ボトルが大きいので、サーバーでなくとも給水器がないと便利にお使いいただけません」「だって、サーバーは3万円以上するんでしょ。レンタルはしていないの?」という展開になります。本部から営業を託された代理店は、そこで「はい。レンタルはできます」と答えますが、お客様の声をそれ以上の深いところで捉えることができません。斯く言う私たちも、お客様の声を捉えられていないという点では大同小異でした。群馬での営業は、21年前の東京での営業を思い起こすものとなりました。当時サーバーは、アメリカ製のみで、1台が10万円くらいしました。見慣れない大型容器のミネラルウォーターを飲むのに、サーバーを買って使ってみようと考える人を探し出すことは、東京でも至難の業でした。そのため、私たちは、陶器製の給水器をセットとした顧客獲得に活路を求めました。20年後の群馬でも状況は同じでしたが、それでもサーバーしか持たない営業よりはお客様の要望に柔軟に対応が利きました。

しかし一方で、長くやってきたからこそ、逆に自分たちの考えに縛られて、想像力を封じ込めてしまっていた面がありました。一般顧客の中で、サーバーに反応する方々が居ます。テレビの端々に姿を見せるサーバーを見て、サーバーそのものを手に入れたいと願う方たちです。一方で、その方々以外には、このガロンボトルビジネスは広がらないという現実を、私たちは直視しようとせずにきました。その事実に目を背けながら、「のれんに腕押し」の営業を繰り返している自分たちに、ふっと気が付いたのです。
きっかけは、5リットルのペットボトルでサーバー仕様のボトルを手にしたことでした。弊社の3ガロンボトルを作っているC社が、ペット材質で5L・8L・10Lのサーバー用ボトルを作ったという話がありました。ただ、その時はまったく他人事として、その話に耳を傾けることはありませんでした。それが、洗浄充填機の納入先からの要望で、改めてこのサイズのボトルと向き合うこととなったのです。新規に事業を始めようと考えていた栃木のS社様は、元々2リットルペットボトルでの事業展開を企画していました。しかし、ペットボトルでは販売の展望が開けず、一旦計画を白紙に戻して考えあぐねていた時に、弊社ホームページを目にしたということでした。天然のアルカリイオン水(ph9.1)で、超軟水(硬度5.4)の温泉水を、競争力のある手法で売り出したいと考えた時、3ガロンボトルでの宅配に活路を見出したのでした。
ただ、その水質上「生水として召し上がっていただきたい」という強い要望があり、サーバーの使用は、あくまでオプションとしたいと考えていらっしゃいました。そこで、「値段の張るサーバーではなく、ガラスの給水器を主体とした販売を組もう」という弊社と一致点が出てきました。そして、「この際、サーバーを必需とする3ガロンボトルは捨てて、5リットルボトル1本に絞ってみてはどうか?」という新たな観点が出てきたのです。

元より、私たちが3ガロンボトルを選んだのは、製造直販という土俵上で、大企業と競合しない道を模索した結果でした。最初は、5ガロンで始めたものを、日本サイズとして3ガロンにするまでは、自分たちの考え通りに事は進みました。ただ、それが達成できた時に「これでよし」としてしまったため、もっと日本に適したサイズを追求しようという観点を置き去りにしてしまったのです。ダイオーズやアクアクララが、私たちの後追いをするように3ガロンないし12リットルボトルを主体に営業を進め、それに連れて韓国製の廉価なサーバーが登場してきました。結局、私たちもその流れに乗って、サーバー主体の営業に入っていくことになりましたが、逆にそれが呪縛として、自分たちを縛ってしまったことに気が付けないでいたのです。
確かに2リットル以下のボトルは、大企業ですら利益を度外視した販売をしていますから、3ガロンを選んだことは間違いではありませんでした。しかし、その中間の容量に目が行かなかったのは、明らかに盲点でした。5リットルのボトルなら、「サーバーを必要としない」という単純なことに気が付くまで、私たちは実に20年もの歳月を費やしてしまったのです。

5リットルボトルなら、小売店に置くこともお土産屋さんに置くこともできます。2リットルのペットボトルのミネラルウォーターは過当競争の末、安売り店での利益は1本で5〜10円程度だと聞きます。ですから、弊社の5リットル入りミネラルウォーターを地元小売店に置けば、製造側も販売側も共に利益を享受できるはずです。また、地方都市の、例えば前橋の百貨店の委託料は、売上の18%に過ぎません。市場主義の悪弊で、すべての利幅が削られたことで、逆に古典的且つ正統派の売り場の委託料が相対的に下がっているのです。ですから、地元の知名度を生かせる、品質の良い商品さえ作り出せれば、様々なチャンス転がっています。値下げ競争の末、理由のないままの低価格が常態化していますが、その分だけ、地産地消という商売の基本に忠実に従うだけで、競争力が転がり込んでくるという状況が現出しているのです。
3ガロンボトルにはサーバーが必需でした。しかし、サーバーが必要ということが、自らの売り場を狭めてしまっている事実は、あまり意識されずにきました。サーバーを必要とする大きさ故に、小売店に置いていただく商品にはなれなかったのです。しかし、「買ってください」とお願いする商品を買ってくれるのは知り合いだけです。一方、売れる商品は並べておきさえすれば、黙っていても売れていきます。不特定多数の消費者が商品を手にすることができるか否か?その差が、即ち私たちの商品を販売することの難しさに直結しています。並べて置けないことのハンデは、必然的に「買ってください」と売り歩くしかない商法に辿り着きます。そして、サーバーを欲しがる僅かばかりのお客様を探し求めるという心許ない商売に、私たちは甘んじて来たのです。20年やってきた人間が、ようやくそのことに気が付いたのですが、一旦そのことに気付けば、見通しは明るくなります。配達と回収はお手の物で、小売店やお土産屋さんや百貨店というチャンネルが新たに増えるのです。

さて、この20年の間に社会環境は著しい変貌を遂げました。サーバーの要らないボトルを、3ガロンボトル同様配達して回収するサービスは、大企業と競合しません。しかし、それは競合しないというだけでなく、地球環境を考えた時、飲料製造会社としての品格が問われるところまで話は進展しています。「中身の飲料を売りたい一心で、容器ゴミを量産していいのか?」という問題です。ペットボトルのリサイクルが、掛け声に終始していることが明らかになり、その処理に膨大な手間と費用がかかることが明白になってきました。また、分別やすすぎを施した使用済みペットボトルが、財政難の自治体を通して、中国に輸出されている実態も見えてきました。それらの現実を通して、「容器をばらまく側がその最終処分に責任を持つべきだ」という機運が、企業の倫理性を問い始めています。その一端として、政府(環境庁)主導でペットボトルのリユース実験が行われるまでになりました。しかし、その取り組みは入り口を彷徨っているばかりで、地球温暖化を阻止できるような域には達していません。
そこで、ボトルの配達回収システムを有するガロンボトルビジネスは、ゴミ処理問題や地球温暖化阻止の切り札的な存在意義を持つことになりました。この流れは、いずれ大手飲料メーカーに、容器の最終処分問題を突きつけることとなることでしょう。
弊社では5リットルボトル用の新たな型を起こし、3ガロンボトルと背丈を同一にした上で共通のキャップが使えるようにしました。同時に、3ガロンボトル専用洗浄充填機を改造し、5リットルボトルの洗浄及び充填ができるようにもしました。

容器の必要性は、恐らく水を起源としています。木の実を確保するには、植物の繊維を編めば事足りましたが、水については、手の大きさ以上の入れ物を入手することは難しかったに相違ありません。水は生命に直結する大事なものなので、それを入れる容器は何かを削ってでも手に入れたかったでしょう。水を運び、確保する道具は、人間だけが手に入れましたが、それは人間が技術を蓄積していく端緒ともなりました。
それが今、1回の喉の渇きを潤すために、一つの容器をポイ捨てにするまでになりました。私たちの捨てるゴミが、私たちの文明を飲み込んでしまうという皮肉が、現代を覆っています。私たちが、この本末転倒から抜け出す程度の知恵を持てないならば、人間に未来はありません。また、その種が知的生命体として君臨する星の未来も、同様に絶望的です。水の惑星が、水の容器ゴミで埋め尽くされるか?それとも、道具の大切さと共に、何のためにその道具を必要としたのか?という初心に立ち返れるかが問われています。

ガロンボトルビジネス業界というものが、あります。この業界は「水の枯渇」に対応する力を持っていますが、まだ構成員は正確にそのことを理解していません。
日本ミネラルウォーター協会という組織が、サントリーやハウス食品を中心に構成されています。こちらは、容器ゴミを量産し、現状では「水の枯渇」を推進する側にいます。勿論彼等もいずれ、この事態に対応しなければならない状況に直面するでしょう。しかし、小回りの利かない彼等がいつ対応を始めるか?は不明です。
その分、ガロンボトルビジネス業界は、実は千載一遇のチャンスを迎えています。配達と回収を前提としている業界ですから、容器ゴミは出しません。利用者がゴミ処理に煩わされずに済むだけでなく、容器ゴミを減らすことを自然に為し得る業界なのです。私たちは、業界内で小さく反目し合うのではなく、一丸となってその長所を訴えていくべきです。また、お客様と面と向かう事業が展開できるように、もっと情報を共有していける体質を身につけねばなりません。お互いが小さなパイを奪い合う存在ではなく、大企業に独占を許している水市場から、共同して、その一角を奪い取るという観点が必要です。
人々は、水道水を飲まなくなりました。田舎でも人々は水を買って飲んでいます。それが何故?ペットボトルの水であって、ガロンボトルの水ではないのか?そこに、ガロンボトルビジネス業界の頭脳を集中させれば、答えは自ずと出てくることでしょう。

2008年4月17日、日本ウォーターアンドサーバー協会の設立準備会が初会合を開きました。アクアクララ株式会社・株式会社ダイオーズ・富士の湧水株式会社の3社に(株)北栄の元社長正代氏が加わり、去年の夏頃から準備会合が続けられてきました。そこに弊社を含め、ガロンボトルビジネスの古株を中心に9社が招集を受け、集まりました。
この会合でも、サーバーが出席社の関心の的でした。誰もがサーバーの呪縛に囚われ、金縛り状態に陥っていることがヒシヒシと伝わってきました。
「何を持って、この業界を括るのか?言葉を換えれば、この業界の他にはない利点・長所とは何か?私は、宅配と回収を同時に行うことが、当業界の最大の利点だと考えます。容器を繰り返し使うことと、配達だけでなく回収をすることが、そのまま地球温暖化やゴミ問題への有効な対応になります。当業界は、その対応力を持って、他のミネラルウォーター業界とも一線を画することができるのですから、その点をもっとアピールする必要があります」と持論を述べたのですが、皆の関心は「サーバーに関して、監督官庁を巻き込んだ後ろ盾が欲しい」ということに集約されていました。
そこで、「もし、皆さんの興味がそこに集約されるのなら、例えば国産のサーバーを作ろうというような強いメッセージを発していけないものか?」という意見を述べました。サーバーの呪縛は強烈です。しかし、本当に、それが強固なものなら、業界が一丸となって乗り越えていけばいいだけの話です。「一点突破全面展開」という言葉があるように、そこに問題が集約されているなら、そこさえ乗り切れれば展望は開けるはずです。私の持論のように、サーバーが家電量販店に置かれ、お客様の手に届くようになれば、3ガロンボトルのミネラルウォーターは爆発的な需要を生むことでしょう。但し、そのためには日本ウォーターアンドサーバー協会が成熟するまでの時間が不可欠です。一方、サーバーの要らないボトルを、3ガロンボトル同様配達して回収するサービスは、直ぐにでも始めることができます。

私はサーバー不要論を説いているのではありません。そうではなくて、3ガロンボトル以上の重量のボトルにはサーバーが不可欠です。しかし、そのサーバーに国産のものが登場しないため、提供する側が半信半疑のまま粗悪品を扱ってしまっている現状を危惧しているのです。ボトルを小さくする以外にも抜本策があります。ペルチェ方式を導入した上で、メンテナンスフリーのサーバーを開発することです。その意味で、日本ウォーターアンドサーバー協会の設立に期待するものは小さくありません。


−ガロンボトルビジネス2008 前編(1月〜7月)−終わり




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